地球温暖化を防ぐために脱カーボン機運が盛り上がってきたところに、戦争が始まって天然ガス供給が不足し、カーボン排出が多い老朽化石油火力や石炭火力を、再び使わざるを得なくなりました。期待される太陽光発電を安定電源として使うには、技術開発にまだ時間がかかりそうです。
ところで、カーボンを排出せず、放射能を排出せず、安定電源となりえる新技術をご存じでしょうか。それは核融合発電です。広義には原子力発電の一種ですが、現在使われている核分裂原子炉とは根本的に発熱メカニズムが異なる技術です。燃料もウランやプルトニウムではなく、海水中に含まれる重水素を使います。この重水素が超高圧高温環境で核融合反応を起こし、ヘリウムに変わる際に放出されるエネルギーで発電するものです。ここからは強い放射能は発生せず、外部電源が喪失した際には瞬時に反応が止まるので、事故が巨大災害に繋がるリスクも小さいものと考えられています。
核融合反応は太陽や恒星内で起こっている自然現象であり、人類にとっての究極のエネルギーと言われてきました。しかし、発電炉を建設するための技術的ハードルが高く、かれこれ60年以上研究が続けられてきましたが、いまだ実用化には至っていません。このような核融合発電ですが、2035年に国際協力による実験炉が稼働する見通しとなり、ようやく光が見えてきました。
このところ先端技術で他国に抜かれ、大きな目標を見失っている日本にとって、核融合発電技術は夢のある目標になり得ます。国土が狭く四方を海で囲まれた日本は、核融合発電によって一挙に資源大国に変わります。そして脱カーボンの先端的リーダーにもなれます。これは、まさに日本にとっての将来の技術目標として、最もふさわしいものでしょう。
福島での原発事故以来、日本の原子力研究には逆風が吹いて、優秀な学生が原子力研究の分野に集まりにくくなっています。将来においても日本が核融合研究開発における世界のリーダーであり続けられるように、政府には早急に明確な方針を打ち立ててもらいたいと思います。